4. 虐待者と被虐待者の自立に向けた支援

虐待者と被虐待者の自立に向けた支援のあり方についてみていきます。

支援のあり方

① チームアプローチ〜虐待者と被虐待者の両者を支援するために

高齢者虐待防止法では、被虐待者への支援だけでなく、虐待者の支援を定めています。しかし、援助職が一人で被虐待者と虐待者の両者を支援するのは難しいことです。

高齢者虐待は不適切な関係性の1つです。そこに援助職者との関係性が加わり、援助職者と家族との関係が親密すぎたり、風通しがわるかったりすれば、関係性の病理がそこでも発生する可能性があります。そのような観点から、チームで対応することが必要です。

② やむを得ない強制的分離としての措置〜どれだけ自立できるのか、人権が尊重された生活を送れるか、という視点から長期的スパンでみていく

被虐待者を救うには虐待者と分離するしかない、と判断された場合、措置という形で強制的に分離を施行することが承認されています。

援助職は、措置で対応することで次に何が生じ得るのか、それに対して何をどうすることで、最終的に被虐待者、虐待者が、どれだけ自立できるのか、人権が尊重された生活を送れるのかという視点から、長期的にみていくことが必要です。 

少しでもより自立できること、少しでも人権やその人らしさが尊重された状態を目指すこと。措置は終結ではなく通過点です。そのあとに誰がどのように変化していくか、関係性がいかに変化していけるかが重要です。 

③ 虐待を通じて表出されたSOSを掌握し、その意味を適切に解し、正しく支援する

家族システムからみれば、虐待者も被虐待者と同様にSOSをあげている人です。目標は虐待を防止することはもちろんですが、虐待を通じて表出されたSOSを掌握し、その意味を適切に理解し、正しく支援することです。

支援の評価について

支援した内容が正しかったのかどうかを、どのように評価するのが良いのでしょうか。支援を通じて「虐待がそれ以上には進行していない」、「虐待の回数が減った」、「虐待がなくなった」というのは、少なくとも結果を評価する際の、指標にはなります。しかし、支援の仕方の正しさを保証するものではありません。

そこで提案ですが、SOSの発信者に確認してはどうでしょうか。事態が一段落したところで、誰に向かってSOSを発信していたのか、その結果、今の生活に満足できているのか、今はSOSをあげないでいられるのかを、直接当事者に聞いてみるのはどうでしょうか。もちろん、「SOSなんて誰にも発していなかった」 という返答が多いことを分かっていながらの挑戦になります。 

もう1つは、市町村レベルを超えて、県レベル、国レベルの、ピアレビューのための体制づくり、支援の評価のためのネットワークづくりです。高齢者虐待事例は、個別性があります。個別性に対して、対応の仕方はある程度一律化できても、評価に一律の指標をあてがうのは難しいのではないでしょうか。

支援の留意点

① 本人を目前にラベリングすることは避ける

共依存は診断名ではありません。例えばうつ病という精神疾患がありますが、その診断を受けることで患者さんは、抗うつ剤や精神療法などの治療を医療保険で受けることができます。診断が本人に還元されるわけです。しかし共依存というラベリングをすることは、必ずしも本人に還元されるわけではありません。むしろ本人が共依存というレッテルで、二重の心的外傷を受けることもあります。

被害者に共依存のことを伝えたり、それで苦しんでいる人がいることを情報提供するのは望ましいですが、本人を目の前にしてラベリングするのは避けるべきでしょう。期待されるのは、そのような説明を受けて自分の状況を振り返り、自身で「私は共依存だったのかもしれない」と気付くことです。

② 援助職の共依存

援助職と当事者との関わり方の原則です。援助職は、他者のために尽くすことにやりがいを感じる人が多いようです。それ自体はとても好ましいことなのですが、度を超すとケースの抱え込みに繋がります。「私でなければ支えられない」、「私が責任を持って最後まで」、といった思いに取りつかれると、共依存と同じです。チームプレーどころか、当事者の利益にならない個人プレーに陥ることもありますので、注意が必要です。

→5. 共依存のアセスメント能力評価表